食べるクスリと服用するクスリ
1: 医食同源
禅寺の山門の傍らに「不許葷酒入山門」と刻んであるのを今でもよく見かけます。「葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず」と読みますが、この葷とは香りのつよい野菜のことで、辛ともいい、五辛=ゴシン(葱・薤・韮・蒜・興渠)のことです。ネギ・ラッキョウ・ニラ・ニンニク、そして興渠とはよくわかりませんが多分ヒル(春の野草のごちそうノビルなど)のことでしょう。これらは、精をつける作用がつよいということで、修行中の僧侶には酒とともに御法度である、というのが「不許葷酒入山門」です。
精力をつけるというとリポビタンDからユンケルドリンクなど連想しますが、Dとあるのはビタミンをとれば力がつくという信仰なのでしょうし、ドリンクは多分ニンニクやアルコールが少量入っている筈ですから、名前をかえた葷酒そのものです。アリナミンからリポビタンDまでのビタミン信仰の時代は去り、今や自然志向の時代、そこでニンニクドリンクの登場となったわけですが、それなら高価なドリンクよりも五辛をさかなに一杯やった方がよろしい、と思います。
ところで五辛は食品ですか、薬ですか? お気づきでしょうが、これらはみなユリ科の植物。葉を食べるように改良したのが普通の長ネギですし、茎の下の方を肥大させて、食用にしたのが玉ネギです。玉ネギ、ラッキョウ、ニンニク、百合根など、剥がせる鱗茎で共通、同じ種類だということはすぐわかります。ニンニクなどは香りと味がきついですが、加熱すると百合根と同じくホクホクと食べられるのはご承知のとおり。
こうした、それだけをむしゃむしゃ食べるには味や香りが辛すぎるけど、少量なら精をつけたり、身体を温めたり、便通をよくしたりする作用がはっきりあるものが、古人にとっては薬だったのです。「気味の正なるものは穀食のたぐい。以て人の正気を養う。気味の偏するものは薬のたぐい。以て人の疾病を治す」と古書にあります。
香りや味のマイルドなものは食品で体力を養う。主食の米などが代表。
それに対して、香りや味のきついものは毒にも薬にもなり、疾病を治す、というものです。でもこうすっきりとは分けられないモノも多く、「医食同源」という言い方も、よく考えるとなかなか難しい。次回から日常的に馴染み深いこうした「食べるクスリ」を紹介していきます。