食べるクスリと服用するクスリ
2: 砂糖
この「食べるクスリ」は、スパイスを例にとって、ニンニク・ショーガ・カラシ……といった順で紹介しようと思っていたのですが、患者さんのIさんから「お茶などは代表的じゃないでしょうか」と僧籍にある方らしく教えられました。ああ、そうか。それじゃというわけでもないですが、砂糖や塩はどうだろうと思いついたのです。日本語の「旨い」と「甘い」が近いように、甘いものは人間にとって最高の食品です。
しかし、それは長く砂糖の甘さではありませんでした。
食品として人間に欠くことのできない甘さは、穀類や芋類の甘さです。ごはんをよくかむと甘い。お芋の甘さ、とりたてのエンドウ豆やトウモロコシの甘さ、おいしいですね。玉ネギやカボチャの甘さ。よく熟れた柿の甘さ。赤ちゃんが感じている母乳の甘さ。これらはむしゃむしゃたくさん食べて身体のエネルギー源になるばかりか、他の栄養もたくさん含んでいる最重要な「食品」です。
お米や麦からつくる水あめ、麦芽糖は古くから作られ、二千年前の漢方薬処方にもはいっています。早くから薬として利用されていたわけです。砂糖の甘さはありませんが、ほのかに甘い。これらの甘さを発酵させると、もうひとつの人類にとって最高の食品とも薬ともなる各種のお酒ができます。
砂糖はどうか。日本ではサトウキビの栽培は1600年頃(江戸時代の直前)奄美大島で始められました。その後「甘い汁」は全部、鹿児島・薩摩藩に搾取されましたけれど。奄美出身の方のよると、小さいころサトウキビをそのままかじるのが最高のおやつだったそうです。虫歯にはならなかったなー、と。砂糖大根は明治になってから栽培がスタートしました。いずれにせよ、つい戦前まで、砂糖、特に白砂糖にまで精製されたものは、そんなに日常的に食べられていたわけではなく、少量で大きなカロリーをくれる貴重なクスリでした。以前、肺結核の患者さんが「クスリとしてバターやチーズを服用した」のと同じです。
現在、私たちは逆に「砂糖はクスリだ」と思い至ることが大切です。現に糖尿病の患者さんが低血糖を起こしたとき砂糖(あめ玉)は救急薬品です。そうだとすれば、健康な普通の私たちがやたら砂糖を口にしてはいけない。
砂糖はクスリだ。他の穀物の甘さと違って甘さのみをそれらから純粋に抽出してしまったいわば化学医薬品・クスリです。毒にも薬にもなるクスリです。ほとんど毒にしかならないクスリです。