食べるクスリと服用するクスリ
3: 塩
漢方医学では陰陽五行説にのっとって診断治療体系ができていますが、五行のうち五味というと酸・苦・甘・辛・鹹(サン・ク・カン・シン・カン)の五つをいいます。前回の砂糖は三番目のカン(甘)、もちろん漢方医学でいう甘は穀類の自然の甘さです。今回の塩は、最後の鹹でこれもカンと読みます。シオカライという味で腎や骨と関係する「味」となっています。
私が子どもの頃、昭和30年頃だと思いますが、マラソンのコースが家の近くを通ったことがありました。オールドファンには懐かしい当時の日本のトップランナー、浜村、広島、山田敬三といった選手たちの首や顔に白い粉がびっしりついているのが不思議でした。聞けば汗が乾いて塩が吹き出ているというのです。現在のように水を補給しながらのスピードマラソンではなく、運動中に水を補給するのは間違いと思われていた耐久レースの時代です。
人類は岩塩、または海水なしでは生存できません。当院で食事指導をされていた幕内先生は「狩猟とか農耕とかいう以前の問題、塩は太陽とか空気とか水と並ぶべきもの、食品だの薬などとは次元の違うもっと根本的なもの」とおっしゃっています。
岩塩にはニガリ成分(食塩以外の塩類)が少ないのでそのままなめられますが、日本では越後(新潟=海岸線が長い)の謙信が甲斐(山梨=海がない)の信玄に塩を贈った(敵に塩を贈る)ように海水からニガリを除いて塩をとります。
海水のままではニガリが多すぎて食用にはならず、日本の製塩の歴史は、ニガリをうまく取り除く歴史でした。昭和40年代にイオン交換樹脂法が普及し、ついに99%純粋の食塩が一般になりましたが、これは味に深みがないし、自然からかけ離れているというので、昨今自然塩が流行していますが、これは適量のニガリ成分をまぜた再製塩です。
肉食動物は、塩分を肉や血液からとれますから塩はそんなに要りません。馬や牛に時々大量の塩水を飲ますように、草食動物や農耕中心の私たちの先祖には塩は不可欠でした。
御飯に塩分、野菜に塩分(漬物)は必須なのです。高血圧の原因として塩が敵視されていますが、塩分の摂取量が減ったのは日本人の食生活が動物性蛋白を沢山とるようになったことの表現です。
薬としては2000年前には岩塩を生薬と一緒に煎じた利尿剤の記載があります。現在では外用薬としての塩健康法が話題になっています。現代医学では、生理食塩水として広く使われているのは御承知の通りです。