食べるクスリと服用するクスリ
4:アブラナ科の食べるクスリ
4-2: わさび
芥子(からし)と同じくアブラナ科。大根などの仲間です。辛味成分もシニグリンで共通です。辛い大根おろしも同じです。
わさびは、どうも日本特有のものらしく、スパイシーなクスリの多くが「漢方薬」という名前からも分るように大陸から伝わったものが多いなかでは、ユニークなものです。
御存知のように山奥の清流に自生しますが、江戸元禄の頃には日本各地で栽培されていました。清冷な水が必要です。
漢字では、葉がアオイに似ているから「山葵」と書いてワサビと読ませます。葉や茎もおいしく食べられます。
なぜワサビと呼ばれたかの由来はよくわかっていませんが、最近では、作家小林信彦氏の、日本伝統のワビとサビの味がするからそれをくっつけてワサビと言ったのだという珍説があります。もちろん、ワビやサビなどの言葉のできる以前から「和佐比」と表記されていましたからこれはジョークです。
ワサビは「おろし方」に秘訣があることはグルメの皆さんは御存知でしょうが、それは先程も触れた主成分シニグリンが加水分解で辛味成分アリルカラシ油になるときの酵素の働きがおろし方に左右されるからです。葉つきの方から静かにまわしながらおろすのです。ゆっくりしずかに。それから食べるときワサビをしょう油にといてしまうとすぐ辛みが消えてしまうので、刺身にワサビを乗せた状態で食べるのがグルメといわれます。ウルサイこっちゃ!
薬効はもちろん、芳香健胃剤として胃腸の働きを高めます。刺身の殺菌作用もあるし、漢方的に言えば身体を温めて発汗させる辛温解表薬であります。
芥子と同様すりおろしたワサビを湿布として痛みに使っていましたし、煎じくすりとして、江戸時代には、「をこりにはくすりまじない多けれどワサビを煎じ飲むが妙なり」といわれました。「をこり=虐」とはマラリアのような身体のふるえる熱病のことです。
粉ワサビはいわゆる西洋ワサビで、大根と同じように畑で栽培しますが、これも冷と湿が大切で温暖な水はけのよい畑ではとれません。大根と違って種子ではなく根(種イモ)で増やします。里イモやジャガイモと違って種イモは増えたあとでも残ります。これは生姜に似ています。これを粉末にして緑色の色素を加えたものが粉ワサビです。もちろん本物の芳香にはかないませんが、ワサビ漬けなど多くのものに利用されます。