東洋医学松柏堂医院

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ときどきの老い

3: 2010年4月号


 「選ぶ力」のハナシをしましょう。これも重要な老人力のひとつです。
先日、私の三味線の師匠・杵屋邦寿師の全国のお弟子さんが一堂に会する機会が京都でありました。集まったのは40~50人ですから、5分づつ演奏するといっても半日はかかりなかなか大変でした。その打ち上げ三次会のこと。
 わいわい飲んでいる中で、私の目にとまったのは福岡から20人くらい来ていたお弟子さんの一人です。「貴方はとてもいいものを持っている。チャーミングだ。雰囲気あるな~。三味線の演奏もとてもよかった」などと若いお嬢さんに私がチョッカイ出します。
私の周囲は、そう言っては何ですが、人生経験をたっぷり踏んできた、私とさして違わない年配の三味線の上手な女性たち。若い女性を褒めちぎる私は許されず「じゃあ彼女の名前をいってみなさいよ、彼女は何を弾いたのか言いなさいよ、まったくいい加減なんだから」と総攻撃です。
 確かに40人も次から次と弾いたのだから、彼女が何を弾いたのか忘れている。「演奏もとてもよかった」はちょっと照れ隠しで嘘っぽい。
 翌朝、ホテルでアルコールが抜けたころ、昨晩のこと思い出し、名簿をみて、ボクが褒めた彼女の名前や年齢を確かめる。ほ~、そうか、そうなんだ。
 何に感心したかというと、彼女は断然年齢が若いのです。他にも若い方は大勢居たし、皆さんきれいにしているから外見では年齢は全く判らなかった。
 つまり、外見では全然判らないのに、私は結果的には「いちばん若い女性」に一発でノックアウトされた、ということですね。
 これは老人力ですねー。ボクが40代くらいまでだったら、ヤンゲストなこの方にすぐ惹かれる、なんてことはなかったろう。生物学的ならぬ生物楽的?に説明すれば、生殖能力を失いつつある老人は、最後の可能性をうんと若い異性に求める、ということでしょう。
 ここからは現実と離れて思考実験すれば、この生物的老人力が突出してくれば、「選ぶ」基準は美貌でも心根の優しさでもない、もっぱら「異性の年齢の若さ」になる、ということになりましょうか。そういうジイサン(バアサン)、なんだかリアルに居そうだな。ちょっとねー。
 このちょっと顰蹙ものの直感力も、明らかに加齢現象にともなって付いてきた老人特有の力であることに間違いない。この力をほどよく使いこなせれば、これは若いときとは異なって、なにかと迷うことなく決断がポンポンできる可能性があるな。
 ラストダンスは私に、という越路吹雪の唄があったが、「ラストチャンスは私に」なんてね。これは単なるオバカな妄想力!!


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