ときどきの老い
2: 2010年3月号
このエッセイは「折りにふれて気付く、時々の老い、のつもりのタイトルなのですが、早速先生の「ドキドキ」の老いは面白そうですね、と言われました。なるほど「ドキドキ」か。老化現象を「ドキドキワクワクするほど面白い、新鮮な対象」にしてゆくのがこのエッセイの目標ですから、嬉しい誤読でした。
さて、前回は、老化現象の中では、「老人力」などと呑気にかまえていられない、もっとも不人気の「口臭」に言及しましたが、先日、三大新聞の一面を全面使った広告で「老人臭を除く石鹸」の宣伝を見ました。
たかが石鹸の広告で、全面広告ですよ。どれだけ売れるんでしょう?どれだけ儲かるんでしょうか?
「貴方の世界から老人臭を追放する!! 清々しい世界を」という文句を見た老人は、自分はこの世界から追放されるしかない臭い存在なのだ。若い人に嫌われないでこの世界に生き残るには、この石鹸を毎日使うしかないのか、と恫喝・脅迫されるわけです。
老人に特有な臭いは昔からありました。生理的な現象ですから当たり前です。
私の知っている「おじいちゃん・おばあちゃんの臭い」は、「臭い」というよりは「香り」の方で、いい臭いでした。それは「コハク酸」の臭いだと言われていました。孫が「じいちゃん・ばあちゃんの懐」に抱かれていると気持ちがよいのはこの香りの所為であると。それは、赤ちゃんの甘いミルク臭さとぴったり対応しています。
こうした人間らしい、動物らしい臭いを全面拒否するのが、最近の風潮です。典型的なジジババが此の世に居なくなったからかもしれませんね。実際、じいちゃん・ばちゃんには、甘い芳ばしい香りがあるのを、体験していない世代が増えているのでしょうか?
いまどきのジジババは、まだお化粧したりして現役だからね、若いからねー。人工的な香りをつけない素の老人は、「ひいおじいちゃん」くらいにならないとね。ひいおじいさんに抱っこされて日向ぼっこ、なんて無くなったのかな~。
そうして、老人には「若い人の嫌う悪臭」があるから、その原因をつきとめよう。対策があればそれはデオドラント(防臭・除臭)商品として「売れる!!」と研究したのが資生堂です。十年前から「加齢臭」という言葉が市民権を得て、急にその対策商品が売れ始めました。
これがさきほどの、一面全面広告の基になっています。
こうした風潮に反対の私は、次の二点を言っておきましょう。ひとつは、美人美人とエバルナ~~、というバンカラな歌があったように、憧れの美女でも甘い香りのウンコは出さないこと。ひとつは、惚れてしまった人のウンコやオナラは排除の対象にはならなくなること。これが人間の真実です。
人間らしさ、真実を壊してまでも売れ筋商品を開発する、まったく人間としてセコイなーと思わざるを得ません。今回は「老人力」とは直接関係するはなしではありませんでしたが、たまたま見かけた「老人臭」に腹が立ったので、そのまま書いてみました。