食べるクスリと服用するクスリ
5:キキョウ科の食べるクスリ
5-1: 桔梗(キキョウ)
初夏から秋の深まるまで、長い期間にわたって咲く青藍色の、「つりがね」をやや広げた形(広鐘形花)の桔梗は鑑賞用の花として皆さんよく御存知ですね。
日本の各地に自生しているほか、東アジアの温帯地方に広く分布しています。『万葉集』には山上憶良の「秋の野に咲きたる花を指折り、かき数ふれば、七種の花、萩の花、尾花、葛花、瞿麦[クバク]が花(ナデシコ)、女郎花また藤袴、朝顔の花」という歌があり、これがいわゆる「秋の七草」です。「春の七草」に比べると「秋の七草」には重要な漢方薬が揃っています。いちばんあとの「朝顔の花」が現在の桔梗のことで、皆さんの庭で夏の朝に咲くアサガオは、ずっと後代になって日本に入ってきたそうです。
桔梗の名は、根が結で(ひきしまり)、梗直(まっすぐ)から桔梗(キチコウ)と命名され、それがキキョウに転訛したとされています。
万葉の頃から全国各地の野性品の根が薬として大和朝廷に献上された記録が残っています。
もちろん、現在では、鑑賞用の花として栽培されることはあっても、漢方薬として根をとるための栽培は、国内ではほとんどありません。中国、韓国からの輸入に頼りきっています。
今回、「食べるクスリ、服用するクスリ」に桔梗を選んだのはやや無理がありますが、今秋、当院の附属薬草園で桔梗の根を収穫したので思いついたのです。二年ものを掘り上げましたが、栽培も収穫も、そのあとの乾燥・カットも、とても易しいもので、皆さんも庭で花を楽しんだあと根を収穫し、乾燥して生乾きのとき包丁で刻んでおけば、のどの痛い風邪のとき煎じて服用できます。
漢方的には咳止め、痰切りの薬効があり、日常的によく使われます。また身体の上部に有効なことから、他の生薬を身体の上部に引っぱり上げる作用を期待されて処方に入れられることもあります。
さて食用の桔梗根ですが、日本ではあまり食べられないようですが、朝鮮では漬物として好まれています。アリランとともに日本でよく知られている民謡「トラジ、トラジ~」のトラジは桔梗のことで、収穫のときの労働歌だそうです。